この要求だけは叶えたい!譲れない交渉に挑む貴方に捧ぐ交渉術

皆さんは今までの人生において、無意識の内に数えきれないくらいの交渉を行ってきています。そのような状況下で交渉が得意な人と苦手な人の差は、交渉の構造や方法を知っているか知らないかだけの差ではないかと考えます。この記事を読んで頂ければ、交渉に対しての理解が深まると共に、交渉への苦手意識を持っている方の不安は解消されるでしょう。

1. そもそも交渉とは何なのか!?~交渉の全体像を捉える~

日常生活において色々な交渉が行われています。仕事での金銭交渉や奥さんに趣味のゴルフ道具を買いたいといった物品交渉等、自分で意識をしていない所でも交渉は日常的に行われています。この章では、交渉の細かな構造に関して記載します。

 

1-1. 交渉の本質

ゼロサム

交渉のイメージとして、相手を騙したり脅したりする等、相手を出し抜いて自分の利益を最大化するというイメージを持っている方が意外に多くいらっしゃいます。しかし、交渉の本質とは、利害関係にある人間(二者or複数)が、互いの要求を主張して最終的な妥結点に到達するプロセスを指します。

最近では価値の共創という形で、交渉はよりよい結果を求めてお互いを補完しあうことであるという主張をされる方もいらっしゃいます。確かにそういった一面もあるかもしれませんが、基本的には一つの価値を各々がどれくらい得ることができるか(自分の利得=相手の損失)というゼロサムこそが交渉の本質です。

 

1-2. 交渉は3つのパターンの組み合わせで構成される

交渉パターン

交渉は状況によって、色々なパターンに分類されます。日常的かつ身近に起きる交渉の事例としては、筆者の経験上「二者間交渉・単一争点・価値分配型」となる傾向が多いと感じます。

 

1-2-1. 交渉人数による分類。二者間交渉or複数当事者間交渉

交渉の当事者が自分と相手だけの場合が二者間交渉です。例としては、奥さんにゴルフ道具の購入を認めてもらうといった交渉が挙げられます。

交渉に関わる当事者が三者以上となった場合が複数当事者間交渉です。例としては、大規模なマンションを建築する際に企業が合同で行うプロジェクト等が挙げられます。二者間交渉に比べると複数当事者間交渉は利害関係人の数が増えるため、交渉の難易度は格段に上がります。

 

1-2-2. 争点による分類。単一争点交渉or複数争点交渉

交渉における利害の対象が1つだけの場合が単一争点交渉です。例としては、奥さんとの話の中でゴルフ道具を自分の誕生日に購入することは決まっていますが、金額に関してのみ決まっていない場合等が挙げられます。

複数争点交渉とは、利害の対象が2つ以上の場合の交渉です。上述した例ですと、誕生日に購入するという点の合意が得られていない場合が複数争点交渉の状態です(ゴルフ道具を購入する日と価格が決まっていない=購入許可と価格の2つ争点があります)。

日常的には、複数争点の中で重要なことのみがクローズアップされて、単一争点になっているというケースが多くなっています。

 

1-2-3. 価値による分類。価値分配型交渉or価値創造型交渉

価値分配型交渉とは、ある一定の価値に対して取り分を分配する交渉です。自分の利得が相手の損失となりますので、値引き交渉等の多くの交渉は価値分配型交渉に分類されます。

価値創造型交渉とは、ある一定の価値を最大化して全体の価値を最大化することを目指す交渉です。交渉当事者の利害関心が異なる場合に、それぞれが求める価値を最大化する形でWINWINの関係を目指す場合が例として挙げられます。

価値創造型交渉の場合でも、価値分配の要素は含まれるので、基本的には交渉は価値分配となり、WINWINといった綺麗な世界は描くことが難しいと認識すべきです。

 

1-3. 交渉をして目的を達成するために重要な3つの要素

留保価値:RV
Reservation Value

交渉において得たい最低限の価値。又は交渉の撤退基準。

合意可能範囲:ZOPA
Zone Of Possible Agreement

交渉において合意・妥結できる範囲。範囲が広いほど交渉がまとまりやすい。

不調時代替案:BATNA
(Best Alternative To a Negotiated Agreement)

交渉が決裂した時の対処案の中で、最善の案。

交渉においては、上記に記載しているRVZOPABATNAを考えることが重要です。何故、重要であるかを個々の説明において記載させて頂きます。

 

◆留保価値(RV)

交渉に臨む当事者が、その交渉で最低限得たい価値を留保価値(RV)といいます。RVは交渉を継続するかSTOPするかの基準となる重要な判断要素です。あくまで最低限の交渉ラインですので、交渉ではRV以上の価値を当然狙わなくてはなりません。

また、自分のRVを交渉の相手方に知られてしまうと、コチラ側がどこまで譲歩できるのかといったことが相手に分かってしまいます。このように自分のRVを知られることは危険ですが、逆に相手のRVを知ることができれば交渉はかなり有利となります。

 

◆合意可能範囲(ZOPA)

交渉に臨む当事者が、その交渉で合意できる範囲を合意可能範囲(ZOPA)といいます。交渉においては、ZOPAが存在する場合と存在しない場合の2パターンがあります。ZOPAが存在するからといって交渉が合意になる保証はありませんし、ZOPAが無い場合でもZOPAを交渉で作り出すことが可能です。基本的にはZOPAが存在しないと交渉において妥結点が見出せないので、ZOPAが存在しないと思った場合は作り出すことを前提に動きましょう。

ZOPAが存在する例」

A企業が商品を1,000円以上で売りたい場合(A企業のRV1,000円)、B企業が1,500円以下で買いたい場合(B企業のRV1,500円)

zopaが存在

ZOPAが存在しない例」

上記の例において、B企業が500円以下で買いたい場合(B企業のRV500円)となるので、A企業のRV1,000円との間にZOPAが存在しないことになります。

ZOPAが無い

◆不調時代替案(BATNA)

交渉している相手との交渉以外で、目的達成することができる最善の選択肢を不調時代替案(BATNA)といいます。BATNAがあれば、交渉から撤退するという選択肢も持てることになるため、変な妥協をして後で後悔するといったことにはなりません。BATNAを言い換えると「強い交渉力を持つこと」と言えます。

 

 

1-4. 交渉を有利に行うために考える2つの力

これまで交渉という事象を分解して、ご紹介をさせて頂きました。交渉においては、このように分解して細部をしっかりと考えることが重要です。ここでは、更に交渉を有利に進めるために、重要なパワーとなる2つの考え方をご紹介させて頂きます。

 

1-4-1. 交渉力UPにはBATNAの改善!

バトナ

交渉におけるパワーの極論は、当事者がその交渉を妥結する必要性がどれだけあるか?という一点に絞られます。良いBATNAを持って交渉に臨み、いつでも交渉が不調になっても大丈夫ですというスタンスを取ることができれば、交渉相手にとっては厳しい状況になるに違いありません。

自身のBATNAを改善することができない場合には、相手のBATNAを下げるという方法を取ることも可能です。ビジネスの世界ではよくありますが、交渉相手のBATNAを実現すると思われる関係者に働きかける(圧力をかける)といったことが挙げられます。

注意点としては、相手に知られると報復を招いたり、今まで構築していた良好な関係が壊れる可能性があるということが挙げられます。

 

 

1-4-2. 相手をコントロールする「アンカリング」

アンカー

アンカリングとは、自身の留保価値(RV)からはなるべく遠く、かつ、相手の留保価値(RV)に近いと思われる位置に、最初の一手を打ち込むことにより、それがアンカー(碇)の役割を果たし、以後の交渉がそのアンカーの場所を起点として進んでいくことをいいます。

例えば、物の価格相場が分からない外国で買い物をした時、最初に提示された価格から値引き交渉を行ってしまい、結果的に実際の価値よりも高い価格で購入をしてしまったという話をよく聞くかと思います。これは、最初に提示された価格がアンカー(碇)になっているという典型的な例です。

尚、通常の取引の場合、価格相場が全く分からないというケースは稀です。アンカリングを行う際には、相手が信用できるような根拠を準備しないと効果がありません。根拠の無いアンカリングや、相手の留保価値(RV)を逸脱した無謀なアンカリングは信頼を失うため止めましょう。

 

 

2. 頼まれたら断れない貴方は必見。断るための交渉術

断る

相手に何か頼まれた時、なんとなく気が引けて断れない、強引に要求されると「イエス」と言ってしまうといった方も多いと思います。この要因の一つに「ノー」と言うことで、相手との人間関係が壊れてしまったり、相手を傷つけてしまうかもしれないといった不安があります。

この章では、上手に断るための交渉術をご紹介します。

 

 

2-1. 将来の可能性と部分的容認

相手の要求を全面的に否定するのではなく、肯定する余地もあるという部分を伝えることで断りやすくなります。

◆将来の可能性を示唆

例えば、すぐに答えを出せない場合には、「今はダメですが将来的には分かりません。」といった形で、将来的にはまだ考える余地があるといって断ることで、相手は今後の可能性を感じて引き下がることもあります。

ただし、「将来的って、じゃあ具体的にはいつなのですか?」と突っ込んでくる人間も当然にいます。ここで重要なのは、貴方は1回「ノー」の意志表示を示しているという点です。現時点で「ノー」という意志をすでに示しているので、「将来のことに関して今は分かりません。時期が来たら検討します」と答えて会話を終えましょう。

 

 ◆部分的容認

相手の要求に対して、全てを受け入れることが無理な場合でも、部分的には受け入れることが可能といったことが考えられます。例えば、町内会で町内行事を1日手伝って欲しいと要望された場合、午前中だけなら協力できますが午後は難しいですといった形で断る方法が部分的容認です。

また、今回は協力しますので来月は休ませて下さいといった形で、コチラから代替案を出し、次回の立場を有利にするといった手法も挙げられます。

 

2-2. 自分では変更できない物理的要因の提示

無理

相手の要求を断りにくい場合、自分だけの意見では無く決裁者の意見であると伝えることも効果的です。その際には、自分がいかに頑張って説得を行ったのかということを相手に伝えると効果が上がります(相手のために説得をしたという印象を与えて、相手からは味方に見られるという効果が働くため)。

尚、中には決裁者と直接話をさせて欲しいと主張する人も出てくるかもしれませんが、決裁者から「ノー」を伝えられているので直接話しても結果は変わりませんし、私が伝えたことが総意ですと伝えましょう。

※こういったケースの場合は、決裁権者に直接話をさせてトラブルになると収拾が付かないので、できるだけ自分で断って終わらせるように努めましょう。

 

 

2-3. 断ることが難しい無茶な要求に対する交渉

まず、二つ返事で要求をすぐに飲むのはNGです。一度でも相手の要求を無条件で飲むと、それが先例となって以後も無茶な要求を吹っ掛けられるばかりか、更に過剰な要求をされるケースに陥ります。

こういったケースで「断れない」という前提がある場合には、タダで要求は飲まないという思考に切り替えましょう。コチラが譲歩して要求を飲むのだから、相手にも必ず見返りを提示させましょう。そうすることで、相手との立場が対等なものへと近付くと共に、お互いの出した条件が交渉の起点となるので、相手の要望を下げることが可能となる場合があります。

 

 

3. 知っていれば得をする価格交渉術

値下げ

価格交渉が行われる際、売り手はできるだけ高く売りたいと思い、買い手はできるだけ安く買いたいと思うのが一般的です。この章では価格構造から交渉方法に関して記載します。

 

 

3-1. 売り手価格の設定方法と買い手の心理

価格設定方法ランキング

1

コストに一定の利益を乗せる方法

2

競合他社製品・サービスを参考にして比較する方法

3

顧客の利得・支払い能力から値付けをする方法

一般的な価格設定方法として多いのが上記の形式です。1位の方法は完全に売り手側の考えとなり、2位と3位は買い手側の納得性が高い方法です。仮に売り手側が1位の考えで売りたい場合の最善方法としては、他社が提供できない価値ある物を作ることです。その場合、買い手側は購入せざるを得ません。

買い手側にとっては、1位の論理は関係無いので、競合他社の同一製品や自分の利得を押しだして価格交渉することが可能です。

 

 

3-2. 複数の価格提示で選択する行動を促す

選択

「最後通牒ゲーム」という行動経済学の実験結果のデータにより、複数価格の有効性が実証されています。実験内容は、例えば10ドルを2人で分配することにして、相手方には提案の受け入れと拒否の選択権があります。提案を受け入れると双方が提案額をもらえますが、拒否した場合には双方は何も受け取れません。実験では相手方に何ドルなら提案を受け入れますか?と質問を行った結果、4ドルなら提案を受け入れるとの回答が平均的でした(分配割合は64となり、この辺りが不平等を感じさせないラインとの結論です)。

その後、今度は一つの提案ではなく二つの提案を示して、どちらかの提案を受け入れるor両方拒否するかの実験を行いました。この時の提案は「3ドルの提案を受け入れる」、「2ドルの提案を受け入れる」、「両方の提案を拒否する」の3択が出されたのですが、一番多かった回答は「3ドルの提案を受け入れる」でした。

選択肢が一つの場合、4ドル未満は不公平と感じる人でも、2ドルの提案が同時に出された場合は3ドルの提案を受け入れるということが分かりました。

※ゲームが1回限りの場合でも、ひどくバランスを欠いた提案は受け入れられないことが多くなります。これも面白い結果ですが、自分の報酬を得る利得以上に、公正ではない相手を罰したいという欲求が表明化する場合が多いのが原因のようです。たとえ1ドルしかもらえないとしても、何ももらえないよりマシだという「理性」より、もっと本能的な部分で公正でない相手を罰したいという思いを進化の過程で人間は身に着けているようです。

この実験から分かるように価格の見せ方によって顧客の心理は変わります。例えば30万円で売り手が販売を希望している商品に対し、「当初の購入予算は10万円しかないけれど、なんとか承認を取り付けて20万円で買います」と交渉すると方が、初めから20万円で買いますと言うよりは良い結果が得られます。

 

 

3-3. 価格交渉の最後に締めくくる最強の言葉

今

競合他社との比較や自分の利得の根拠を説明し、当初の想定よりも高い金額を出しますという数々の価格交渉を行った終盤戦、それでも相手が首を縦に振らない場合に使う最後の言葉、それは「○○円なら今決めます!」です。

決めてくれると言っている顧客を逃すことは、よっぽど顧客側の要求が過剰では無い限り、ほぼありえないでしょう。逆にこの言葉を言っても、相手側の返事を引き出せない場合は、自分の要求に何らかの問題点があると認識して下さい。

 

 

4. 交渉における「想定外」への対処方法

想定外

交渉において、理不尽な対応をしてくる相手や嘘を付いてくる相手が出てくることもあるかもしれません。この章では、そういった「想定外」の人々に対する時の交渉方法に関して記載します。

 

4-1. 事実・データ・議論を無視する理不尽な相手との交渉

理不尽な相手との交渉時に心掛けるポイント

交渉を打ち切れるように事前に準備(法律確認・社内承認等)する

相手を説得したいからといって一方的な譲歩はしない

記録を毎回書き止める

まずは、理不尽な要求には従わないということを明確にするためにも、交渉を撤退する線引きを明確にしておくことが重要です。理不尽な相手は、とにかく人の弱みに付け込もうと必死ですので、これ以上は後に引かないので交渉を切り上げますというラインを明確に示しましょう。

また、相手を説得したいがために一方的な譲歩を行うと付け込まれます。譲歩をする際には必ず相手方にも何らかの要求を飲ませるように心掛けましょう。相手方の非生産的な主張を助長させてしまう恐れがあるので、その場しのぎの譲歩は非常に危険です。

記録は非常に重要です。日本は法治国家ですので、トラブルが行くところまで行けば最後は司法の場で決着を付けざるをえません。その際に、正確な記録を取っていれば客観的な証明となりますので、交渉の記録は必ず取るようにしましょう。

 

4-2. 嘘を付いている相手との交渉

嘘

嘘への対処方法としては、嘘を聞き流す方法や相手が嘘ではなく誤認しているという前提で話をする方法等、基本的には嘘だということを主張すべきでないという諸説が多いようです。嘘を付くということは、真実を歪めて主張しなければならない動機があるはずですので、その動機に対して仮説を立てて、中立者に受け入れられるような証拠を示すことができれば嘘は露見しますが、現実的に嘘の証明というものは非常に難しいものです。

一つ嘘を付くと、その嘘を真実とするために嘘を重ねなくては説明ができないケースが多いため、基本的には聞き流すという選択を行い、交渉の過程で嘘が積み上がってきたら反論を行うという手法が相手の綻びを突きやすくなるので良いと考えます。

 

 

5. まとめ

色々な交渉に関わる内容を記載させて頂きましたが、交渉ごとにおいて最も重要なことは「冷静」な気持ちを保つことです。相手が熱くなっている時にこそ、冷静に客観的に交渉の起点を捉えましょう。また、無理な物は無理という言葉があるように、どれだけ貴方が冷静に働きかけても受け入れられない相手は必ず存在します。やるべきことをやったら撤退するという気持ちを持つことも、交渉においては重要となりますので、交渉が不調に終わったとしても気にしないようにしましょう。

 

「参考文献」

・グロービスMBAで教えている 交渉術の基本 グロービス()  (価値による分類・RVZOPABATNA・アンカリング)

・武器としての交渉思考 瀧本哲史()  (アンカリング)

・弁護士が教える気弱なあなたの交渉術 谷原誠(著)  (断るための交渉術)

・クレーム処理のプロが教える断る技術 援川聡(著)  (断るための交渉術)

・プロフェッショナル・ネゴシエーターの頭の中 藤井一郎(著) (価格設定方法ランキング)

・プライスレスー必ず得する行動経済学の法則 (青木社)  (最後通牒ゲーム 行動経済学の実験結果のデータ)

・ハーバード×MIT流 世界最強の交渉術 (ダイヤモンド社)  (交渉における「想定外」への対処方法)

・負けない交渉術 大橋弘昌(著)  (交渉における「想定外」への対処方法)